恵沢窮りあり

現在、世界では1年間に500~600万ha(日本の農地面積以上)の農地が砂漠化しているといわれています。また、世界の農地面積の25%で土壌の劣化が進行していると推測されています。(国連環境計画<UNEP>の推計)。さらに現在、世界の4人に1人(17億人)は安全な水を確保できない状態にあるといわれており、国連も「21世紀は水の世紀」と予測しています。

乾燥地域の塩害・地下水位の低下

アメリカのセンターピボット灌漑

カリフォルニア州の農産物生産額はアメリカで第一位。しかし、この穀倉地帯の年間降水量は250ミリ以下、以前は一面の荒野でした。変貌したのは超大型灌漑プロジェクト以降。同州の農地約300万haの水は、北部の山脈地帯から710km(東京・函館間の距離)の幹線水路で引いているのです。しかし、この全米一の穀倉地帯も灌漑水に含まれる塩類が農地に堆積、約3分の1の農地に障害が発生していると言われています。
また、右の写真は地下水の汲み上げによる畑地灌漑、緑の円が農地です。アメリカ中部の灌漑農地の約5分の1が巨大なオガララ帯水層の地下水に頼り、こうした大規模な灌漑を行なっています。しかし、降水量の約三倍もの水を汲み上げているため、地下水位が低下、多くの農民が灌漑農業を放棄するなど大きな問題となっています。
オーストラリア南東のマレー川流域は年間降水量が400ミリの乾燥地帯。遠方の巨大ダム群から導水して約12万haの水田が造られ、8トン/haという高収量をあげています。しかし、広大な水田からの地下浸透が進み、周辺の畑・樹園地に深刻な湿害や塩害が発生。地下水を排除するため巨大な蒸発池を造って処理しています。
中央アジアでは旧ソ連がアラル海周辺で790万haという広大な灌漑農地を開発しましたが、周辺農地で広範囲の塩害が発生。アラル海の貯水量は4分の1に低下し、生物も棲めぬ死滅湖となりました。また、中国の中央部・北部、インド北西部・南部、パキスタン、北アフリカ、中東、アラビア半島と乾燥地帯の大半の農地で地下水位の低下が進行、取水困難な状況となっています。

激増する水需要

どうしてこのような事態が顕在化してきたのでしょうか?
その最も大きな要因は地球人口の増加に伴う穀物消費量の増大です。世界の年間穀物消費量は1961年時点で約8億トンでした。それが1999年には約18億トンと二倍以上になりました。さらに、20余年後の2030年には28億トンになると推測されています。
世界の年間水使用量は1,000k㎥に達するのに数千年を要しましたが、その後、2,000k㎥になるのに30年、さらに3,000k㎥には20年足らずで達しています。そして、驚くべきことに、2030年にはさらに1,300k㎥の増加になるとの見通し。果たして、地球の水の量でまかなえるのでしょうか。

水の惑星?

地球は水の惑星とも言われ、地表面の約4分の3が膨大な量の海の水で覆われています。この地球を直径5cmほどのボールに縮小すると海の水はどれくらいの量になるでしょうか?
答えは一滴です。わずか一滴の水が薄い薄いベールのように地球を取り巻いているのです。しかも、その水の約97.5%が海水。残り2.5%の淡水のほとんどが南極や北極の氷。川や湖で人間が利用できる水は0.01%に過ぎません。
世界の降水量の分布は4,000mmの多雨地帯から砂漠まで極端なまだら模様。アジアの稲作地帯は多雨に恵まれていますが、日本のように急峻な地形が多く、雨はすぐに海へと流れ出ます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば現在でも17億人が水不足、2025年には三倍の50億人に達するとの見通し。国連も「21世紀は水の世紀」とし、今世紀半ばには最悪の場合、世界60カ国、70億人が深刻な水不足に直面すると予測しています。乾燥地帯では少ない水を巡って水紛争や政治的緊張が頻発するようになりました。

世界の農地面積は?

水不足になるのは乾燥地帯ばかりではありません。温暖化の影響でヒマラヤやアルプスの氷河も融解し、比較的湿潤なアジアやヨーロッパでも水脈の変化が起きています。
一方、順調に増えてきた世界の農地面積もここ十数年は伸びが停滞、一人あたりの農地面積は減少が続いています。
先進国の機械型農業は石油に依存しています。その石油もあと数十年で枯渇することが明らかになってきました。

恵沢(けいたく)窮(きわま)りあり ―― 無限大に思えた地球の資源にも大きな陰りが見えてきています。