豊秋万古なりや

諸外国で顕在化してきている水・農地の病弊と比較すると日本の状況は恵まれています。日本の水田の収量は小麦の約1.5倍。撒いた種の量の110倍を超す収穫があります(小麦は24倍程度)。また水田耕作は、雑草の繁茂を抑制、水による土の殺菌、水の養分の活用など様々な営農のメリットを持ち、数千年続けても連作障害が起きないなど、経済学の始祖アダム・スミスも絶賛した理想的な持続型農業です。しかし、それも農家あっての話。水利システムが健全に保たれての話。高齢化が進む農村、はたして日本の豊秋はいつまでも続くのでしょうか。

世界でも稀な水管理体制

急峻な地形を持つのわが国では、降水を有効に使用するため河川の水を分散する工夫(水路)、水を貯める工夫(ため池)、土に水を染み込ませる工夫(山地への植林)など、古代から降雨をできるだけ長く大地へ滞在させる努力が連綿と続けられてきました。また四〇万kmにおよぶ水路網は、前述したように「国土を巡る血脈」として市場においては評価されない多大な外部経済的機能を果たしています。
この長大な水路や水利施設の約八割は農家によって構成される水土里(みどり)ネット(土地改良区)によって、世界的にみても極めて良好に管理されてきました。農家は割賦金を支払い、水土里(みどり)ネットに施設の維持管理をゆだねる一方で自らも水路の草刈りや清掃などを行っており、こうした日本独自の農民参加型灌漑管理は、世界各地のモデルケースとして国際的に注目されています。

農村の変貌

しかし、現代社会は、国民の八割が農村で暮らしていた昭和30年代頃とは大きく変化します。
経済の成長とともに農業と他産業との収益の格差は拡大、食料自給率も大幅に低下するなど農業は弱体化しました。農村では過疎、高齢化、担い手不足など深刻な事態が発生。農家人口も一割前後となり、農村は大きく様変わりしました。
村の全員が修理していた江戸時代とは比較にならないほど水利システムは高度化・大規模化しました。しかし、それを管理する農家は減少する一方。また、農村の都市化や混住化に伴って川や水路の水質も悪化、水路には生ゴミ、空き缶、家電製品や古自転車などが投棄され、市民の転落防止用安全柵も設置したりと、施設の管理や修理費の負担は年々増加する傾向にあります。
さらに、戦後に造られた水利施設も老朽化し、水土里(みどり)ネットによる管理は限界に瀕しています。

農産物の輸入がもたらす影響

本の食料自給率は平成18年には40%を割るなど、先進国の中では最低ラインにあります。
輸入した農産物は、同時にそれを育てるのに必要な水をも輸入していることになり、私たちの社会は外国の土壌や水資源を使用して、飽食文化を享受していることになります。コーヒーやサトウキビなど製品によっては水不足に瀕している乾燥地帯からの輸入もあり、私たちは自覚することもなくその国の乏しい水状況を悪化させているのかも知れません。
また、旺盛な農産物の輸入は、米の消費量の激減、自国の農地の激減にも影響しています。
米の消費量はピークであった昭和35年頃のほぼ半分にまで落ちてしまいました。
わが国の耕作放棄地はすでに埼玉県の総面積を超えます。さらに、宅地や工場用地などに転用されてしまった農地ともあわせると、日本の農地は昭和30年代から現在までに132万ha、実に琵琶湖20個分の農地を失ってしまいました。

20年後の日本

以上述べてきたことは農家や農村だけの問題でしょうか?……今の小学生たちが働き盛りになる20年後のことを考えてみましょう。

石油の枯渇に伴う価格の上昇

本経済が現在のような貿易黒字を出しているのは石油のおかげ。石油の価格が高騰すれば、日本経済はどうなるでしょうか。

農産物の暴騰

現在の機械化農業も石油に依存しています。石油価格が上がれば、農産物は減少、価格は暴騰するでしょう。

水不足の深刻化

国連や政府間パネルが推測するように、2030年前後には何十億人という人間が水の危機に瀕しています。当然、世界の農産物も減少、また価格が暴騰する可能性があります。

農産物の輸入も困難に

その農産物を輸入しようにも、日本経済が停滞すれば難しくなります。世界の水飢饉によって、ポスト石油と言われるバイオエタノールの輸入にも赤信号がともります。

老朽化が進む農業水利施設

ざっと明白なことだけを挙げても、恐ろしい事態が待ち受けているように思えます。
世界の情勢を考えると、自国の農業資源をもっと大切に有効に活用していくことが必要ではないでしょうか。しかし、今でさえ高齢化や担い手不足が極まっている日本の農村。20年後にはほとんどの農家がリタイヤしています。果たして、自国の国民を養うだけの生産が可能でしょうか?
こうした状況が訪れた時、真っ先に影響を受けるのは、農家や農村ではなく、都会の住民ではないでしょうか。

※グラフ・・・資料はいずれも農林水産省調べ