豊泉洽く達す

水路の役割が農業用水だけにとどまっているなら、その地域はまだ真の資産価値に気付いていないことになります。農業用水は防火や消雪、また道路への水まきや清掃などの生活用水として利用されています。そうした直接的な水使用だけでなく、公園、緑地空間、散歩道など潤いのある水辺づくり、歴史的水路など観光の名所として、また水路を利用した小水力発電、あるいは水路の生き物や水質の調査など環境教育として、そして何より水路の清掃など地域のコミュニティづくり……。工夫次第でどんどん地域資産としての価値を高めて行くことができます。
豊泉洽く達す ―― 水はあらゆる生命・文化の源泉。人間の存在にとって最低かつ最高の資産です。水路の活用こそが今後の地域振興の鍵となるかもしれません。

ストックマネジメントは地域づくり

ストックマネジメントは、施設を守るだけでなく幅広く活かしてその価値を高めていくことです。水路や水の価値は、農業のためだけにとどまらず、地域住民の参加によって、もっと大きな価値を生み出すことが期待できます。主なものを挙げてみます。

1.農業や農業用水への理解が深まる

新住民は農業のことを知らなかったりライフスタイルも異なる人が多く、トラブルが発生したりする地域も少なくありません。活動を始めるにあたって、集落の歴史や水路開発の由来、水路の役割などを学ぶ研修会を行えば、農業への理解も深まり、地域への愛着が湧くでしょう。

2.自治体の自立精神の高揚

地域経済の悪化、財政難が進行する中で、広域化、高齢者福祉、防犯など地方自治体の仕事は以前にも増して肥大する一方です。地域活動を通して「自分たちの地域は自分たちで守る」という意識が発生すれば、自治体にとっては今後の行政展開においても大きな財産となるはずです。

3.コミュニティ機能の再生

かつての農村には講、結い、手間替えといった様々な互助組織がありました。しかし講の仕組みは銀行に、介護や冠婚葬祭も外部サービスに、災害復旧、道普請といった公務は行政の仕事と化しました。地域活動はこうした昔の互助精神やコミュニティ機能を再生する可能性を持っています。

4.農村景観や地域環境の創造

疏水マップや集落のお宝マップの作成、ワークショップなどを通して住民の地域を見る目が醸成されます。ある集落のワークショップでは200項目を超える意見が出されたそうです。更新に際しても、魚道や石積みのホタル水路など環境に配慮した事業が期待できます。

5.伝統文化の継承

近年の農村では高齢化や過疎化のため集落の祭りや伝統芸能などを続けるのが困難な地域が激増しています。ほとんどの祭りは農事に由来するもの。水路の管理をきっかけとした地域活動によって、新旧住民の意識が高まり途絶えていた祭りが復活したという地域も出てきました。

6.子供たちの環境教育

小学校と提携して行う水路の生き物調査や水質の調査は、どこの地域でもたいへん好評です。身近な自然観察や生き物調査などは総合教育としても最適な素材。米づくりや水路の歴史、役割などのミニ授業も加えることで、次世代を担う子供たちへの大きな贈り物になるでしょう。

7.流域ネットワークの形成

水路、取水する川、水源林。これら何十kmに及ぶ水の道は流域共同体と言えます。明治用水はダムを持たないゆえに毎年水源林への植林を続けています。
愛知用水の受益市町も水源地と交流を行っています。こうした流域ネットワークの形成は今後極めて重要な施策となります。

8.グリーン・ツーリズムの母体

欧州では、半世紀も前からグリーン・ツーリズムが普及しています。今後とも農村の定住促進、二地域居住、農山村留学など都市と農村の交流は盛んになるでしょう。農村の地域活動は都市住民の受け入れ母体として大きな役割を果たします。

9.小水力・マイクロ発電への活用

石油の枯渇やCO2規制を背景にクリーンな新エネルギーへの期待が高まっています。水路は大きなエネルギーを持っており、富山県では29ヶ所で農業用水を使った発電を行っています。最近では、流量2㎥/秒でも数ワットの発電が可能な超小型の水力発電機も登場しています。

10.観光開発などの地域振興

歴史的資産でもある水路や水利施設は観光名所としてのポテンシャルを持っています。また、水路を中心とした田園博物館構想、ビオトープや親水公園づくり、その水を使った農産物のブランド化など、地域活動の隆盛は大きな地域振興となる可能性を持っています。

すごい熱気のワークショップ(熊本市天明中央地区)

農家以外の人も参加した地域の共同管理。草刈りや農道の補修などは、子供の通学路の安全確保にも寄与する。

水土里(みどり)ネット明治用水は、長年にわたり水源かん養林を管理し、水と緑の大切さを子どもたちに教えるなど、緑化思想の普及啓発が評価され、内閣総理大臣表彰を受けました(平成18年)。

水田地域での伝統的行事。途絶えていた祭りなども復活すれば、観光資源としても大きな可能性を秘めている。

水路のゴミ拾いも兼ねた生き物調査。これまで関心のなかった道路わきの水路も、いきなり興味が沸く。

桜の名所として知られた常願寺川の常西用水路。この水路にも北陸電力が三ヶ所の発電所を設けている。おかげで農家の管理費は著しく軽減された。