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第一章 第二章 第三章 「農」が造った国土
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第四章
二次的自然の形成−琵琶湖40個分の湿地帯

 ところで、温度計もない昔、どうやって田植の時期を知ったと思いますか?田植は気温や水温と密接な関係があり、時期が1週間でもズレると収穫に差がでるらしい。春といっても、急に暖かくなったり、4月に大雪が降ったり。だから日付では決められないのです。

  春先の平均気温は、山の残雪の形で分かったそうです。雪が消えかけて山の地肌が馬の形になった時、蝶の形になった時、仏様が表われた時・・・。だから、山の名も、白馬岳、蝶ヶ岳、常念岳・・・。 桜の花でその年の気候を予測したともいいます。花見の行事はそこからきているらしい。 雲や風で天気を読み、鳥の動きで異変を察知し、草の生え方で土の良し悪しを知る。何世代にもわたって農家に伝えられてきた自然を読む術(すべ)。これらは、現代の科学では計り知れないほど奥の深いものがあるはずです。

 堤防の土手が崩れないように桜の木を、田の周辺にはモグラが穴をあけないように根を張る草を植えました。神社の森や屋敷林も落ち葉を肥料にできる樹木を植えました。 とりわけ、山の森と人々の暮らしとの関係は密なるものでした。日々の煮炊きに使う薪(たきぎ)は言うに及ばず、田畑の肥料も山の草を使いました。川の水は山の森が生み出したものです。上流の森が豊かであれば、洪水も減り、日照りが続いても川の水は枯れません。農民にとって、山は信仰の対象になるくらい大切なものでした。山に木を植えるのもまた農民の仕事、何世代にもわたって農民は山に木を植え続けてきたのです。

 水田には鳥がやってきて、様々な虫を食べます。琵琶湖のオオナマズは田んぼで卵を産みました。タニシ、ゲンゴロウ、カエルなども生息する豊かな生態系の場でした。また、童謡「春の小川」に歌われている小川も、「農」が造った水路です。様々な魚の住処であり、ホタルなどたくさんの昆虫が生息しています。ため池もまた、植物と動物がエネルギーを交換しあう豊かな生態系の場です。

 日本の水田面積は約260万ha。これは琵琶湖の40倍の広さに相当します。また、ため池の総数は全国で21万ヶ所(そのうち近畿地方は7.5万ヶ所、全体の約35%)。そして、約40万kmの水路網。つまり、日本は、琵琶湖40個分に相当する湿地帯、21万ヶ所のため池、地球10周分の長さの小川を持っていることになるのです。つまり、現在、私たちが目にするほとんど自然の風景は、何世代にわたって「農」のために造られ続けてきた自然であり、いわば、人の手が加わった自然なのです。

 こうした人の手の加わった自然は、「二次的自然」とも呼ばれます。逆にいえば、原生林以外は、すべて「二次的自然」になりますね。したがって、日本の豊かな生態系は、「農」が造った自然の上に形成されたものであるという言い方が可能になるのです。

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