2-豊かな日本の生態系

4.水田の生態系サービス

 前述したように、水田は日本人の主食である米を供給するだけでなく、琵琶湖40個分に相当する人工的湿地帯として多くの生き物を育ててきています。他にも、水田は以下のような重要な機能を持っています。


・洪水防止機能

日本の水田の総面積から低平地の水田を除いた約200万haの有効貯水量は約44億m3。日本の多目的・治水ダムの全洪水調節容量38.7億m3(平成8年)と比較することはできないにせよ、水田が大きな洪水調節機能を持っていることは明らかであり、全国の4割を占める中山間地域の水田は、下流地域の洪水防止に大きく寄与している。


・土砂崩壊や土壌浸食防止機能

H16年の中越地震でも報告されているが、水田、特に山間部の棚田には土砂崩壊を防止する働きが顕著であることが明らかとなっている。


・水質汚染防止機能

日本では外国と違って地下水の飲める地域が多くあります。水田にいる微生物には、窒素分を環境に無害な窒素ガスに戻す作用(脱窒効果)が認められており、欧州で問題になっている地下水の硝酸性窒素化を防いでいます。「定量化は難しいが、水田の脱窒作用が日本の浄化にかなり役立っているのは間違いない」(田淵俊雄・元東大教授)と指摘されています。


・大気浄化機能

水田には、石炭や石油に含まれる(SO2)やディーゼル車などで問題となっている二酸化窒素(NO2)などを吸収する働きも認められている。大気汚染学会のデータでは、全国の水田のSO2吸収量は年間約2万5,000t。NO2吸収量は年間約3万5,000tと試算される。


・地下水の涵養

水田灌漑による地下水の涵養量は、地下水の19.6%を占めていると試算されている。水田の底に敷かれた粘土層が高性能なフィルターの役割を果たし、水田の土中にいる微生物が有機物を分解しておいしさの要素となるミネラル分を作り出す。


・ヒートアイランド防止機能

水田の平均気温低下効果は1.3℃と試算されている。1km四方のうち水田面積が50%以上ある世帯は全国で約450万世帯。これらの地域の冷房状況から換算すると、水田の気候緩和による貨幣評価は約87億円と試算されている。

(数値はいずれも(株)三菱総合研究所『地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価に関する調査研究報告書(H13.11)』より。)


水田面積と洪水被害の推移(埼玉県越谷市の事例)

水田面積の減少と共に床上浸水、床下浸水の件数が増えていく様子を示すグラフ。
出典:関東農政局計画部
「平成5年度農業農村基盤国土・環境保全維持増進対策調査報告書(越谷地区)」(平成6年)


 水田が少なくなるということは、これらの国土保全機能、いわば水田による生態系サービスも減少していくことを意味します。とりわけ、洪水防止機能や土砂崩壊防止、水質の浄化機能などは直接的に市民生活に影響してきます。

 私たちは、今後大きな世界的潮流となるであろう「生物多様性」の面からも、そして多面的機能という「社会資本(ストック)」の面からも、水田の再評価をすべきではないでしょうか。

 さらに水田生態系のネットワークを形成する水路網、ため池などの価値も見逃せません。